持物で見分ける

持物(じもつ)とは、仏が手に持つ道具のことです。持物には、それぞれの仏が持つ役割や誓いが象徴されており、印相とあわせて仏を見分ける重要な手がかりになります。

剣と経典:智慧で迷いを断つ

剣と経典は、智慧で迷いを断ち切り、教えを授けることを象徴する持物です。

蓮華:清浄な悟りの境地

蓮華(れんげ)は、清浄な悟りの境地を表す持物で、観音菩薩などに見られます。泥の中から美しい花を咲かせる蓮の姿が、迷いの世界の中で悟りを開くことになぞらえられています。

水瓶:渇きを潤す清らかな水

水瓶(すいびょう)は、清らかな水で人々の渇きを潤すことを象徴する持物で、観音菩薩などに見られます。

宝珠:願いをかなえる珠

宝珠(ほうじゅ)は、願いをかなえる珠とされ、人々に恵みを与えることを象徴します。地蔵菩薩などが手にします。

錫杖:地獄の衆生を救う

錫杖(しゃくじょう)は、杖の頭についた輪が音を立てて、修行者の来訪を知らせる道具です。地蔵菩薩の持物として知られ、地獄に落ちた衆生をも救うという地蔵菩薩の誓いを象徴します。

薬壺:病を癒す薬

薬壺(やっこ)は、病を癒す薬を納める壺です。薬師如来が左手に持つことで知られ、他の如来との見分けの決定打になります。

四天王:持物で4体を見分ける

四天王(持国天・増長天・広目天・多聞天)は、いずれも甲冑をまとい邪鬼を踏む似た姿をしていますが、持物と方位で個別に見分けられます。持国天は東方を守り剣を、増長天は南方を守り戟(げき・矛の一種)を持ちます。広目天は西方を守り、他の3体と違って武器ではなく筆と経巻(巻物)を持ち、人々の善悪の行いを記録するとされます。多聞天は北方を守り、仏の教えと財宝を納めた宝塔を手のひらに捧げ持つ姿が最大の特徴で、単独で信仰されるときは毘沙門天(びしゃもんてん)と呼ばれます。国宝・東大寺戒壇堂の四天王立像(奈良時代)は、この持物の違いが分かりやすい代表例です。

尊格方位持物
持国天東剣
増長天南戟(矛の一種)
広目天西筆と経巻
多聞天北宝塔

千手観音の千の手と持物

観音菩薩の変化身のひとつである千手観音は、名前のとおり多くの手を持ち、それぞれの手に異なる持物を持つ、あるいは異なる印相を結ぶ姿で表されます。実際に千本すべてを彫刻することは難しいため、42本の手で千手を象徴的に表す作例が多く見られます。ひとつひとつの手が異なる持物を持つのは、あらゆる方法・あらゆる手段で人々を救おうとする誓いを、視覚的に表現したものとされています。持物の種類は仏によって決まっているとはいえ、千手観音のように多くの持物を同時に見せる例もあることを知っておくと、見分けの幅が広がります。

持物が失われているときの見分け方

持物は木や金属でできた別部材として手に取り付けられていることが多く、長い年月のあいだに欠損したり、後世の修理で失われたりすることが珍しくありません。持物が確認できない場合は、髪型・装身具・印相など、ほかの手がかりと組み合わせて判断する必要があります。博物館の展示解説や図録には、当初どのような持物を持っていたと考えられるかが記されていることが多く、あわせて確認すると理解が深まります。

持物は、仏像の彫刻や絵画で失われていることもありますが、残っている場合はもっとも確実な見分けの手がかりのひとつです。次の記事では、複数の仏が組になって並ぶ「三尊形式」から中尊を見分ける方法を解説します。