印相で見分ける

印相(いんそう)とは、仏が手の形で示す象徴的なサインです。同じ如来でも、印相によって「どの仏か」を見分けることができます。

定印:瞑想を表す。輪の有無で釈迦・大日と阿弥陀が分かれる

定印(じょういん)は、腹の前で両手を重ね、瞑想・精神統一を表す印相です。ひとくちに定印といっても、指の組み方によって2つに分かれ、これが釈迦如来・大日如来と阿弥陀如来を見分ける手がかりになります。

法界定印(ほっかいじょういん)は、両手を重ね、親指の先どうしを合わせるだけで、指で輪はつくりません。釈迦如来や、密教の大日如来(胎蔵界)に見られます。

阿弥陀定印(あみだじょういん・弥陀定印)は、両手を重ね、親指と人差し指(像により中指や薬指のこともある)で輪をつくります。阿弥陀如来に見られる印相で、極楽往生の9段階(九品)を表す一群の像では、輪をつくる指の組み合わせを変えた作例も知られています。

つまり、同じ「腹の前で重ねた手」でも、輪をつくっていなければ釈迦如来か大日如来、輪をつくっていれば阿弥陀如来と見分けられます。大日如来はさらに智拳印(後述)を結ぶ金剛界の姿もあるため、宝冠などの装飾の有無とあわせて確認すると、3つの如来をより確実に見分けられます。

施無畏印と与願印:安心と恵みを与える

施無畏印(せむいいん)は、右手を上げ、手のひらを外に向ける印相で、恐れを取り除き安心させることを表します。与願印(よがんいん)は、左手を下げ、手のひらを前に向ける印相で、願いを聞き入れ恵みを与えることを表します。この2つは対で結ばれることが多く、釈迦如来や薬師如来に見られます。

転法輪印:初めての説法

転法輪印(てんぼうりんいん)は、胸の前で両手の指を組み合わせ、輪をつくる印相です。釈迦が悟りを開いた後、初めて行った説法(初転法輪)を表します。

来迎印:極楽からの迎え

来迎印(らいごういん)は、右手を上げ左手を下げ、それぞれで輪をつくる印相です。阿弥陀如来が、死後に極楽浄土から迎えに来る姿を表したもので、阿弥陀如来を見分ける最も分かりやすい手がかりのひとつです。

智拳印:最高の智慧

智拳印(ちけんいん)は、胸の前で右手が左手の人差し指を握る印相です。大日如来(金剛界)に見られ、最高の智慧を表します。大日如来は如来でありながら宝冠などの装飾をまとう例外的な存在で、印相もあわせて確認すると見分けやすくなります。

印相の早見表

印相手の形見分けの決め手よく見られる仏
法界定印腹の前で両手を重ね、親指の先どうしを合わせる(輪はつくらない)手が体の中央・膝の上にあり、指に輪がない釈迦如来・大日如来(胎蔵界)
阿弥陀定印腹の前で両手を重ね、親指と人差し指で輪をつくる手が体の中央・膝の上にあり、指が輪をつくる阿弥陀如来
施無畏印右手を上げ、手のひらを正面に向ける上げた手の指が5本そろって上を向く釈迦如来・薬師如来
与願印左手を下げ、手のひらを正面に向ける下げた手の指が下を向き、施無畏印と対で結ばれることが多い釈迦如来・薬師如来
転法輪印胸の前で両手の指を組み合わせ、輪をつくる両手が胸の高さで向き合い、指が絡む釈迦如来
来迎印右手を上げ左手を下げ、それぞれ輪をつくる上下に離れた両手が、どちらも輪をつくる阿弥陀如来
智拳印胸の前で右手が左手の人差し指を握る片方の指を握り込み、宝冠などの装飾を伴う大日如来(金剛界)

遠くからでも判別しやすいのは、左右非対称になる施無畏印・与願印の対と、上下の手が両方とも輪をつくる来迎印です。

施無畏印と与願印は同時に結ばれることが多い

施無畏印と与願印は、それぞれ単独で結ばれることもありますが、立像(立ち姿の仏像)では、右手で施無畏印、左手で与願印を同時に示す形がよく見られます。右手を上げて「恐れなくてよい」と示し、左手を下げて「願いをかなえよう」と示す、左右で対になった姿です。この左右非対称の形は、遠くから見ても分かりやすいため、印相の中でも初心者が見つけやすいもののひとつです。

同じ仏でも印相が変わることがある

印相は、ひとつの仏に対して常にひとつに固定されているわけではありません。たとえば釈迦如来は、場面によって法界定印を結ぶこともあれば、施無畏印・与願印を結ぶこともあります。これは、印相が「その瞬間に仏が何をしているか」を象徴するサインだからです。瞑想している場面なら法界定印、教えを説き人々を安心させる場面なら施無畏印・与願印、というように、場面ごとに使い分けられます。

如来は印相だけで見分けられることが多い一方、菩薩や明王は印相よりも持物(手に持つ道具)が見分けの決め手になることが多くなります。印相は、持物(じもつ)とあわせて確認することで、より正確に仏を特定できます。次の記事では、手に持つ道具「持物」について解説します。