伝説の羽衣(ハゴロモ)チョーク|数学者が愛した名品の物語
「これを使えば間違った証明は書けない」――そんな伝説まで生まれたチョークがあります。日本の羽衣(ハゴロモ)チョークです。なぜ世界中の数学者が夢中になり、廃業のときに大騒ぎになったのか。その物語をたどります。
日本の「羽衣(はごろも)チョーク」は、世界の数学者が大すきだった名品。今は韓国(かんこく)で作られているよ。
「チョーク界のロールスロイス」とは
かつて日本の羽衣文具という会社が作っていた「羽衣フルタッチチョーク」は、世界中の数学者から 「チョーク界のロールスロイス」 と呼ばれ、絶賛されていました。チョークひとつにそこまで?と思うかもしれませんが、その書き味は本当に別格だったといいます。
数学者の間では「羽衣チョークを使えば、黒板に間違った定理(証明)を書くことはできない」という冗談まじりの“神話”すら語られていたほどです。
なぜ数学者に愛されたのか
理由は、その圧倒的な使い心地にありました。
- なめらかな書き味:黒板の上をするすると滑り、かすれのない濃い線が引ける。
- 折れにくさ:一般的なチョークより少し太く、高い密度で成形されているため、指で持っても折れにくい。
- 手が汚れにくい:表面に薄いワックス(ロウ)の膜があり、長時間書いても指に白い粉がつきにくい。
長い時間、黒板にびっしり数式を書く数学者にとって、「滑らかで・折れず・手が汚れない」チョークは、まさに理想の道具だったのです。箱の中でも一本ずつていねいに仕切られて割れないように梱包されていた、という細やかさも語り草になっています。
廃業と世界的な買いだめ騒動
ところが2015年、羽衣文具は廃業を決めます。後継者がいないことや、社長の体調、そして授業のIT化でチョークの需要が減ったことなどが理由でした。
この知らせは世界の数学界にショックを与え、一部では「Chalkapocalypse(チョーク黙示録)」とまで呼ばれる買いだめ騒動が起きました。研究者たちは「自分が退職するまでに必要な本数」を計算し、10年〜15年分ものチョークを一気に買い集めたといいます。
いまでも、廃業前に作られた本物の羽衣チョークは、ネットのオークションなどで高値で取引されることがあります(1箱が数百ドルにのぼった例もあるといいます)。「ただのチョーク」が、コレクターズアイテムになっているのです。
韓国への技術継承
この名品が消えてしまうのを惜しんだのが、韓国で羽衣チョークの愛用者だった一人の人物でした。彼は私費を投じて日本を訪れ、製造機械や調合の技術、そして「HAGOROMO」の商標をゆずり受けます。
そして韓国に新しい会社(セジョンモール)を設立し、製造設備を移して生産を続けました。こうして、羽衣チョークの製法は国境をこえて受け継がれ、今も同等品質の製品が世界に届けられています。
「良いものを絶やしたくない」という思いが、海をこえて技術をつないだ――チョークをめぐる、心あたたまる物語です。
まとめ
- 羽衣フルタッチチョークは「なめらか・折れにくい・手が汚れない」で世界の数学者を魅了した。
- 2015年の廃業時には世界的な買いだめ騒動(Chalkapocalypse)が起きた。
- 製法は韓国の会社に受け継がれ、今も作られている。
道具ひとつにこれだけのドラマがあるのは、チョークの奥深さを感じさせます。
よくある質問
Q. 羽衣チョークは今でも買えるの?
A. 日本の羽衣文具は2015年に廃業しましたが、製法と商標が韓国の会社に受け継がれ、同等品質の製品が今も作られています。廃業前のオリジナルはコレクター品として高値で取引されることがあります。
Q. 羽衣チョークは何がそんなにすごかったの?
A. 「なめらかな書き味・折れにくさ・手の汚れにくさ」です。一般より少し太く高密度に成形され、表面の薄いワックス膜で指に粉がつきにくい。長時間黒板に数式を書く数学者にとって理想の道具でした。