見どころ
深川江戸資料館に見る、水路に面した町の暮らし
運河がまだ生きていた頃、人と物資はどう行き交っていたのか。
公益財団法人江東区文化コミュニティ財団が運営する深川江戸資料館(江東区白河1丁目)は、江戸時代末期(天保年間ごろ)の深川佐賀町の町並みを実物大で再現した展示施設です。運河そのものの遺構ではありませんが、運河に面した町がどう機能していたかを具体的に伝える場所として、散歩の途中に組み込む価値があります。
なぜ佐賀町が選ばれたのか
佐賀町は、隅田川の河口と小名木川の合流点に近く、大型の廻船が直接接岸できる水運の最前線でした。表通りに再現された肥料問屋「多田屋」は、実在した店を史実にもとづいて復元した、館内でも数少ない実名の建物です。掘割には客を運ぶ猪牙舟(ちょきぶね)が浮かび、対照的な性格で描かれた2軒の船宿「升田屋」(堅実な構え)と「相模屋」(派手な構え)が並びます。資料館の展示は、この「水路に面した大規模な物流」と、その裏手に広がる長屋の生活空間という、深川という街の二層構造を実寸で見せています。
30分ごとに繰り返される一日
この資料館の特徴は、単に建物を並べただけの展示ではない点にあります。音響と照明によって、朝から夜までの一日の移り変わりが30分おきに15分間かけて演出されます。物売りの声や「火の用心」の呼びかけが響き、光の色が変わることで時刻の経過を体感できます。掘割に架かる火の見やぐらの影が伸びていく様子も、この演出の一部です。さらに、多くの江戸東京の資料館と違って展示物には触れることができ、表通りの大店や裏長屋に実際に上がり込んで、当時の生活道具に触れられる「体感型」の構成になっています。
前の記事とのつながり
小名木川を舟で行き交った物資や人の姿を頭で理解しても、それがどんな規模の町を支えていたかを想像するのは難しいものです。深川江戸資料館は、その空白を埋めてくれる場所です。表通りの土蔵と裏長屋の対比を見たあとで、この先で紹介する仙台堀川や古石場川、油堀川の跡を歩くと、道の広さの意味がより具体的に感じられるはずです。