トップ / 基礎知識
DataFrame APIの書き味はよく似ていますが、クラスタを自分で持つか持たないかで運用とコストの構造がまったく変わります。
Apache SparkとSnowparkは、どちらも遅延評価の分散DataFrame APIという点で似ています。実際、後述するようにコードの見た目もかなり近くなります。しかし、その裏側にあるインフラは大きく異なります。
Sparkはユーザー自身がドライバーノードとワーカーノードから成る計算クラスタ(多くはJVM環境)を用意し、管理する必要があります。メモリ設定やネットワークのチューニング、Sparkのバージョンアップ対応もユーザーの責任範囲です。一方でSnowparkは、Snowflakeが提供するフルマネージドな環境(Virtual Warehouse)の上で動くため、そうしたクラスタ運用の作業そのものが発生しません。
Snowflake上に蓄積されたデータをSparkクラスタ側で処理しようとすると、データを一度Snowflakeの外へ転送する必要が生じる場合があります。この転送にはネットワーク費用や転送時間がかかり、データがSnowflakeの外に出ることによるセキュリティ上の考慮も増えます。Snowparkはデータが存在するのと同じ基盤(Snowflake内部)の上でコードが評価されるため、こうした転送が発生しません。
Snowpark PythonのDataFrame APIは、PySparkのDataFrame APIを強く意識して設計されています。select・filter・join・limitのような単語1つのメソッドはPySparkとSnowparkで同名・同じ使い方です。
# PySpark(1台以上のクラスタで実行)
result = (
df.filter(col("amount") > 100)
.groupBy("customer_id")
.agg(F.avg("amount").alias("avg_amount"))
.orderBy("avg_amount", ascending=False)
.limit(10)
)
# Snowpark(Snowflakeのウェアハウス上で実行)
result = (
df.filter(col("amount") > 100)
.group_by("customer_id")
.agg(F.avg("amount").alias("avg_amount"))
.sort(col("avg_amount").desc())
.limit(10)
)
違いが出るのは複合語のメソッド名です。PySparkはgroupBy・withColumnのようにcamelCaseが標準ですが、Snowparkはgroup_by・with_columnのようにsnake_caseが標準です。Snowparkは実はgroupBy・withColumn・orderByというcamelCaseのエイリアスも内部に持っており、PySparkと同じ綴りでも動きます(SDKのクラス定義を実機で確認済みです)。ただしSnowflake公式のサンプルコードはsnake_caseで統一されているため、新規に書くならsnake_caseに合わせておくのが無難です。
DataFrameの変換メソッドだけを使っているコードは前述のとおりほぼそのまま移植できますが、UDF(ユーザー定義関数)を使っている場合は実行モデルそのものが変わります。PySparkの公式ドキュメントは「Apache Arrowは、SparkがJVMとPythonプロセスの間でデータを効率的に転送するために使うインメモリの列指向データ形式である」と説明しており、これはPySparkのPython UDFがJVM(Sparkエンジン本体)とは別のPythonプロセスで動き、その間のデータ受け渡しにシリアライズのコストがかかることを裏付けています。一方Snowparkでは、Python UDFの中身はSnowflake側のサンドボックスで実行されます。どちらも「メインの実行エンジンとは別の場所でPythonが動く」という構造は共通していますが、その「別の場所」を自分でチューニングできるか(Sparkのワーカー設定)、Snowflakeに任せるかという運用面の違いは大きく影響します。UDF・UDTF・ストアドプロシージャの使い分け自体はこちらのページで解説しています。
Snowflakeの仮想ウェアハウスは秒単位(起動時のみ60秒の最低課金あり)で課金され、一定時間操作がなければ自動的に一時停止(オートサスペンド)し、次のクエリが来ると自動的に再開(オートレジューム)します。Sparkクラスタは、常時起動させておくか、都度起動・停止させるオーバーヘッドを引き受けるかのどちらかになります。この差が特に効くのは、日次バッチのように断続的にしか処理が走らない使い方です。1日数回、数分だけ処理するような使い方なら、Snowparkのオートサスペンドはその合間の課金をゼロにしますが、Sparkクラスタは(オートスケーリングの設定次第では)待機コストが残ります。逆に、24時間ほぼ絶え間なく処理が流れ続けるような使い方では、稼働時間で見た差は縮みます。
公式ドキュメントの記載にもとづく解説です(実行検証はしていません)。確認日:2026-08-29