推定
点推定・区間推定の考え方と信頼区間の構築を学びます。
ヒント:このモジュールで学ぶこと
Chapter 1 で学んだ標本平均 と不偏分散 を思い出しましょう。推定理論はこれらの統計量を出発点に、「標本から母集団を推測する」方法を確率的に厳密化したものです。
「スプーン1杯の味見で鍋全体の塩加減を当てる」これが推定の本質です。鍋全体(母集団)を全部飲み干さなくても、1杯(標本)を味見するだけで全体の味を推測できます。
推定には2つのアプローチがあります。点推定(「全国の高校男子の平均身長は168cmと推定する」のように1つの数値で答える)と区間推定(「166〜170cmの範囲にある」のように幅で答える)です。点推定は簡潔ですが「どれくらい信頼できるか」が伝わりません。区間推定は「推定の不確かさ」も同時に伝えられます。同じデータでもよりの方が幅が狭く、より精確な推定ができます。
統計的推定とは、標本から得られた情報を使って、観測できない母集団の特性(母平均 や母分散 )を推測することです。点推定・区間推定・信頼区間という3つの概念を、具体的な場面とともに理解しましょう。
1. 点推定:1つの数値で母数を推測する
クラス30人の身長を測り、標本平均 cmを計算しました。これを「全国の高校男子の平均身長(母平均 )の推定値は168cm」と報告するのが点推定です。1つの数値で母数を推測します。
母平均 の推定量として最もよく使われるのが標本平均 です。母分散 の推定には不偏分散 を使います。
なぜ分母が なのでしょうか。自由度の概念で考えるとわかりやすいです。具体例で見てみましょう。3人のデータ の平均 がわかったとします。このとき偏差の合計はゼロ、つまり が必ず成り立ちます。、 とわかれば、3番目の偏差は と自動的に決まります。3個のうち自由に動けるのは2個()だけです。この「自由に動ける数」を自由度といいます。 で割ると母分散を過小推定するため、 で割ることで偏りを補正します()。このような「期待値が真の母数に等しい推定量」を不偏推定量(unbiased estimator)といいます。
2. 中心極限定理と標準誤差:「標本平均はどれくらいばらつくか」
クラス30人を1つの標本として平均を計算したとします。次に別の30人で同じことをすると、少し異なる平均が出ます。さらに繰り返すと、毎回少しずつ異なる値が得られます。この「標本平均のばらつき」を理論的に捉えるのが中心極限定理と標準誤差です。
この「標本平均がとりうる値の分布」を標本分布(sampling distribution)といいます。標本分布を理論的に求めるのが中心極限定理です。
中心極限定理(CLT: Central Limit Theorem):母集団の分布の形を問わず、標本サイズ が十分大きければ、標本平均 の分布は正規分布に近づきます。
標本平均の標準偏差 を標準誤差(SE: Standard Error)といいます。SEは「標本平均のブレの大きさ」すなわち推定の精度を表す指標です。SEが小さいほど標本平均は毎回ほぼ同じ値を示し(安定した推定)、SEが大きいほど標本平均は毎回大きくばらつきます(不安定な推定)。 が大きいほど SE は小さく(推定が精確に)なります。 を4倍にすると SE は半分になります()。
具体例:全国高校生の身長の標準偏差 cm、標本サイズ のとき cm。36人の標本平均は、真の母平均から cm程度の範囲に68%の確率で収まるということです。
3. 信頼区間とt分布:「幅を持たせた推定」
点推定の弱点は「1つの数値だけで不確実性が伝わらない」ことです。「平均168cm」と報告しても、それが「167〜169cmの精確な推定」なのか「150〜186cmの粗い推定」なのかがわかりません。そこで、1点ではなく「範囲」で母平均を推測する信頼区間(confidence interval)を使います。
母分散 が既知のとき、母平均の95%信頼区間は:
「この手続きで作った区間は、長期的に見て95%の割合で母平均を含む」という意味です。具体的にイメージすると、同じ調査を100回繰り返してそれぞれ区間を作ると、そのうち約95個の区間が真の母平均を「捕捉」する、ということです。今手元にある1つの区間について「母平均を含む確率95%」と言うことはできません(母平均は固定した値で、確率的に変わるのは区間の方です)。この違いは試験の頻出引っかけなので注意しましょう。
言葉だけでは掴みにくいので、実際に20回とってみます。
しかし実際には母分散 は未知です。 の代わりに標本標準偏差 を使うと、追加の不確実性が生じます。これを反映するために正規分布より裾が厚いt分布(自由度 )を使います。
**なぜ → の置き換えで裾が厚くなるのか?** 正規分布を使った区間推定は「 が既知で確定している」という前提で成立します。ところが は標本ごとにばらつく推定値です。大きめの が出た標本では幅が広すぎ、小さめの が出た標本では幅が狭すぎ、という不確実性が加わります。t分布はこの「推定誤差を二重に抱えた状態」を正確に反映した分布で、その結果として正規分布より裾が厚くなります。自由度 は「 個のデータから を計算した後に自由に動けるデータ点の数」を意味します。 が大きくなるほど は に近づき、t分布は正規分布に収束します。
試験ポイント:「母分散既知 → 正規分布()」「母分散未知 → t分布(自由度 )」。サンプルサイズ を4倍にすると信頼区間の幅は半分になります。
4. 標本調査の基礎:「なぜ全員調べないのか」
信頼区間や検定の理論は「標本からデータを集める」ことを前提にしています。では、なぜ母集団全体を調べる全数調査ではなく、標本調査を使うのでしょうか。
全数調査(census)はすべての対象を調べる方法で、正確な結果が得られます。しかし現実にはコスト・時間・物理的制約から不可能な場合がほとんどです。例:「日本国民全員の健康状態を毎月測定する」「工場で製造した製品を破壊検査でテストする(全数調査すれば全製品が壊れる)」。
標本調査(sample survey)は母集団の一部を選んで調べる方法です。正確度は下がりますが、現実的な時間・コストで情報が得られます。
標本調査の信頼性を左右するのが無作為抽出(random sampling)です。母集団からランダムに標本を選ぶことで、特定のグループに偏らない代表的な標本が得られます。
- 単純無作為抽出:全員に番号を振り、乱数表などで無作為に選ぶ。最もシンプルな方法。
- 層化抽出:母集団をいくつかの層(年齢層・地域など)に分け、各層から無作為に抽出。層ごとの特性を保ちたい場合に有効。
- 系統抽出:名簿から一定間隔(例:10人おきに1人)で抽出。実務で使いやすい。
サンプリングバイアス(偏り):無作為でない抽出は、母集団を代表しない標本につながります。例:「スマートフォンユーザーへのオンラインアンケート」は高齢者や低所得者を過少代表しがちです。調査結果を読む際は、誰がどのように抽出されたかを確認しましょう。
試験ポイント:「標本の特性値(標本平均など)は統計量、母集団の特性値(母平均など)は母数(パラメータ)」という用語の区別は頻出です。
よくある誤解・つまずき
- 「95%信頼区間」は「真の母平均がこの区間に95%の確率で入る」という意味ではありません。 正しくは「同じ方法で何度も区間を作れば、そのうち約95%が真の値を含む」という、手続きの性質です。出来上がった1本の区間に対して確率を語るのは誤りです(試験頻出)。
- 点推定だけでは「どれくらい信頼できるか」が伝わりません。 だから幅を持つ区間推定が必要です。
- **母分散が既知なら正規分布()、未知なら t分布(自由度 )** を使います。取り違えに注意。
- 統計量(標本から計算)と母数(母集団の真の値)を混同しない。 推定するのは母数、計算できるのは統計量。
ここまでのまとめ
- 点推定(1つの値)と区間推定(幅+信頼度)。区間は不確かさも伝える。
- 不偏分散 は で割る(自由度 )。
- 信頼区間:母分散既知→(95%なら1.96)、未知→t分布。。
- 信頼区間の正しい解釈は「手続きを繰り返したときの性質」。 を4倍で幅は半分。
確認クイズ(抜粋)
Q1. 不偏推定量の説明として正しいのはどれか。
A. 繰り返し推定したときの期待値が真の母数に等しい推定量
Q2. 母分散 σ² の不偏推定量として正しいのはどれか。
A. (1/(n−1)) Σ(Xᵢ − X̄)²(不偏分散)
Q3. 標準誤差(SE)の計算式として正しいのはどれか(σ: 母標準偏差、n: サンプルサイズ)。
A. σ / √n
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