正準相関分析と共分散構造分析
2組の変数の関連を最大にする正準相関分析と、潜在変数を含む因果モデルを検証する共分散構造分析を学び、多変量解析の手法の選び方を整理します。
このモジュールで学ぶこと
「理系科目の成績と文系科目の成績は、全体としてどれくらい関連しているか?」「学力という見えない概念を、複数のテスト得点で測るモデルを作りたい」このモジュールでは、2組の変数の関連を測る正準相関分析と、直接測れない概念(潜在変数)を含む関係をモデル化する共分散構造分析を学びます。読み終えると、次の3つができるようになります。
- 2組の変数の相関から正準相関係数を求め、正準変数の意味を読める
- 共分散構造分析の測定モデル・構造モデル・パス図・適合度指標を説明できる
- 目的とデータの型から、多変量解析の手法を選べる
1. 正準相関分析
「数学・理科の成績(変数セット)と国語・英語の成績(変数セット)は全体としてどれだけ関連しているか?」これを答えるのが正準相関分析(Canonical Correlation Analysis)です。
2組の変数セット ( 変数)と ( 変数)に対して、正準変数の組 を:
と の相関(正準相関係数 )が最大になるように を選びます。
組の正準対が存在し、各組は前の組と無相関になります。これはPCAの2変数版への拡張と見ることができます。
数値例:数学・理科()と国語・英語()の得点を標準化し、相関が次のとおりだったとします(架空の値です)。
| 組 | 相関 |
|---|---|
| 数学と理科 | |
| 国語と英語 | |
| 数学と国語、理科と英語 | |
| 数学と英語、理科と国語 |
と の間の相関は、どの1組を取っても最大 です。ところが、各組の合計点どうし(、)を取ると、相関は に上がります。理系の総合力と文系の総合力のあいだの関連を、個々の科目よりよく捉えているわけです。第2の組は、差の得点(、)で、 です。意味は「数学寄りか理科寄りか」と「国語寄りか英語寄りか」の対応で、第1の組と無相関になります。 なので、組はここまでです。
よくある誤解:「正準相関分析は重回帰分析の多変量版で、 から を予測する手法」と思いがちですが、誤りです。正準相関分析は と について対称な手法で、「 から を予測する」のではなく「 と の間でもっとも相関が高い線形結合のペア を探す」分析です。 と を入れ替えても同じ正準相関係数 が得られます。一方、重回帰では「説明変数 → 目的変数」の方向が固定されているため、変数の役割を入れ替えると結果が変わります。
次は、直接測れない概念を含む関係をモデル化する手法を見ます。
2. 共分散構造分析(SEM)
「学力(潜在変数)は語彙力・読解力・計算力(観測変数)で測られる」このような「観測できない概念(潜在変数)」を含む因果関係をモデル化するのが共分散構造分析(SEM: Structural Equation Modeling)です。
SEMは2つのサブモデルからなります:
- 測定モデル(因子分析部分):潜在変数と観測変数の関係
- 構造モデル(パス解析部分):潜在変数間の因果関係
パス図(Path Diagram):変数を四角(観測変数)や楕円(潜在変数)、矢印(因果・共分散)で表した図。
パス係数:矢印の重みで「原因変数が1標準偏差変化したとき、結果変数が何標準偏差変化するか」を表します。
モデルの適合度は 検定・CFI(比較適合指標)・RMSEA(二乗平均平方根近似誤差)などで評価します。
つまずきやすい点:SEMでは「因果」は理論から来ます。矢印の向きはデータから決まるのではなく、研究者の理論的仮説を反映します。
3. 3手法の使い分け(正準相関・対応分析・SEM)
正準相関分析・共分散構造分析と、多次元尺度法と対応分析で扱った対応分析の3つは「2 つ以上の変数群の関係を捉える」という共通点がありますが、扱うデータ型と目的が異なります。
- 正準相関分析(CCA):2 セットの量的変数群の関連を、相関が最大になる線形結合のペアとして抽出します。例:学力テスト群(数学・国語・英語)と性格特性群(外向性・誠実性)の関係を全体として把握したい場面。
- 対応分析:質的変数(カテゴリ)の関連を低次元プロットで可視化します。例:年代×購買カテゴリのクロス表から「20 代は化粧品、50 代は健康食品」といった対応関係を散布図で示したい場面。
- 共分散構造分析(SEM):潜在変数を含む構造モデル全体の適合度を検証します。例:「ストレス → 不眠 → 疲労」という因果モデルがデータに整合するかを確かめたい場面。
押さえどころ:3手法の比較表
| 観点 | CCA | 対応分析 | SEM |
|---|---|---|---|
| データ型 | 量的変数 × 2 セット | カテゴリ変数(分割表) | 量的変数(潜在変数を含む) |
| 目的 | 2 群間の最大相関構造を抽出 | カテゴリ間の関連を可視化 | 因果モデル全体の検証 |
| 出力 | 正準変数ペアと正準相関係数 | 低次元の散布図(バイプロット) | パス係数・適合度指標(CFI・RMSEA 等) |
| 必要サンプルサイズ | 中程度(変数の 10 倍程度) | 比較的少なくても可 | 大標本推奨(200 以上が目安) |
| 探索的/確認的 | 探索的 | 探索的 | 主に確認的 |
判断の目安:データが量的か質的かでまず CCA・SEM と対応分析を分け、量的の場合「単に関連の強さを見たい」なら CCA、「因果構造を検証したい」なら SEM と進むと迷いません。
4. 多変量解析の選択フロー
多変量解析の手法は数が多く、目的に応じた選択が重要です。「何を知りたいか」から逆算するフローで覚えると整理しやすくなります。
ステップ 1:目的を分類する
- 関連の構造を見たい
- 探索的に構造を探す → 因子分析・主成分分析(PCA)・正準相関分析(CCA)
- 確認的に仮説モデルを検証 → 共分散構造分析(SEM)
- グループ化したい
- グループラベルがない(教師なし)→ クラスター分析
- グループラベルがある(教師あり)→ 判別分析・ロジスティック回帰
- カテゴリ変数の関連を見たい
- 低次元で可視化 → 対応分析(数量化 III 類)
- 独立性の検定 → 分割表分析(カイ二乗検定)
ステップ 2:データ型を確認する
| 目的変数 | 説明変数 | 推奨手法 |
|---|---|---|
| 量的 | 量的 | 重回帰・PCA・因子分析 |
| 量的 | 質的 | 数量化 I 類・分散分析 |
| 質的(2 値) | 量的 | ロジスティック回帰・判別分析 |
| 質的 | 質的 | 数量化 II 類・対応分析 |
| なし(教師なし) | 量的・質的混合 | クラスター分析・多次元尺度法 |
判断の目安:「目的(要約・分類・予測・検証)」と「データ型(量的・質的)」の 2 軸を最初に決めれば、手法は自動的に絞り込めます。「○○を分析したいとき、どの手法を使うか」で迷わないよう、このフローで手法を絞り込む練習をしておくと整理できます。
確認クイズ(抜粋)
Q1. 正準相関分析が答える問いはどれか?
A. 2組の変数セット間の最大相関を見つける
Q2. 共分散構造分析(SEM)の「潜在変数」とは何か?
A. 直接観測できない理論的概念(観測変数で測定される)
Q3. SEMのパス図において楕円で表されるのはどれか?
A. 潜在変数
全10問のクイズはサイトのインタラクティブ版でお試しください。
第9章の他のモジュール
※本サイトは個人による学習支援サイトであり、統計質保証推進協会・日本統計学会の公式サイトではありません。