商取引の法務(商法・手形・小切手)
商人・商行為の定義、商事に関する特則、手形・小切手の基本を学びます。
なぜ商法が必要か
取引先から「部品を100万個、来月末払いで納品してください」と頼まれた場合、この一言だけで契約が成立するのが企業取引の現実です。民法の原則どおりに書面を交わし、証人を立て、熟慮期間を設けていては、現代のビジネス速度に追いつきません。
そこで商法は、大量・迅速・反復継続を特徴とするビジネス取引に合わせた特別ルールを用意しています。商法は民法の特別法であり、商人間の取引には民法より商法が優先して適用されます。
商人と商行為
商法が「誰に・どんな場合に」適用されるか。それを決めるのが「商人」と「商行為」の定義です。
商人:自己の名をもって商行為をすることを業(継続・反復して)とする者。個人事業主・株式会社・合同会社などが該当します。
商行為:商人が営業のために行う行為。「営業のため」かどうかが判断基準になります。
ポイント:個人間の中古品売買(フリマ)は「業」ではないので民法が適用されます。同じ売買でも、業者が継続して行うと商行為になり商法が適用されます。
商法上の重要な特則
商人・商行為の概念を踏まえて、次は民法と異なる商法特有のルール、すなわち試験で頻出の3つを見ましょう。
① 商事留置権(商法第521条)
取引先が代金を払わない。そのとき、相手の荷物や有価証券を手元に置いて「払うまで返さない」と主張できる権利が商事留置権です。民法の留置権と異なり、同一当事者間で生じた商行為上の債権であれば、その物と別の取引から生じた債権についても留置できるという拡張された権限があります。
② 報酬請求権(商法第512条)
民法の委任(依頼)は原則として無償です。しかし商人が営業の範囲内で他人のために行動した場合は、特約がなくても相当な報酬を請求できます。「頼まれたからタダでやった」とは扱いません。
③ 商事時効
2020年の民法改正により、商事時効の独自規定は廃止され、一般の消滅時効(債権者が権利行使できることを知った時から5年、行使可能時から10年)が適用されます。
手形:「後払いの約束を証券にする」仕組み
商法の特則に続いて、企業間の決済手段として今も使われる「手形」の仕組みを見ましょう。
建材メーカーが元請業者に資材を納品した。元請業者は「来月末に払う」という。しかしその約束は口頭では証明できず、万一倒産されたら何も残りません。そこで元請業者が「来月末日に100万円を支払います」と記名・捺印した紙を渡す。これが約束手形です。
手形は、一定の金額を一定の期日に支払うことを約束した有価証券(証券自体に財産的価値がある)です。
手形の4つの特性(試験最頻出)
約束手形・為替手形の種類が分かったところで、なぜ手形が「証書」として価値を持つのかを理解しましょう。
必要的記載事項:約束手形には「手形文句・一定の金額・支払約束文句・満期・支払地・受取人・振出日・振出地・振出人の署名」が必要です。1つでも欠けると手形は無効になります。
小切手:手形との違い
手形と似た有価証券に「小切手」があります。決定的な違いは「いつ払うか」です。
小切手は振出人が銀行に対して一定金額の支払いを委託する証券です。当座預金残高の範囲内で振り出し、呈示されると即時に支払われます。
手形との決定的な違いは「タイミング」です。
小切手の注意点:残高不足の口座から小切手を振り出すと「不渡り」になります。同一人物が6ヶ月以内に2回不渡りを出すと銀行取引停止(事実上の企業活動停止)になります。
確認クイズ(抜粋)
Q1. 約束手形と為替手形の違いとして正しいものはどれか。
A. 約束手形は振出人が自ら支払いを約束し、為替手形は振出人が第三者に支払いを委託する
Q2. 手形の無因証券性の説明として正しいものはどれか。
A. 手形は原因となった取引(売買など)が無効でも、手形自体の効力には影響しない
Q3. 商人が営業の範囲内で他人のために行為をした場合の報酬請求権について正しいものはどれか。
A. 相当な報酬を請求できる
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