労働基準法の基礎
労働条件明示義務、賃金支払いの5原則、法定労働時間、有給休暇の要件を学びます。
1. なぜ労働基準法が必要か
「1日16時間働かせても構わない、と雇用契約に書いてあるから問題ない」。これは誤りです。労働基準法は、使用者(会社)と労働者の間にある力の差を是正するため、労働条件の最低基準を定めた強行法規です。この基準を下回る労働契約は、その部分が無効となり、労働基準法の基準が自動的に適用されます。なぜなら、契約の自由だけに委ねると、弱い立場の労働者が不利な条件を飲まされる危険があるからです。
2. 労働条件の明示義務:書面明示が必要な事項
使用者は、労働契約の締結時に労働条件を明示しなければなりません。以下の事項は書面(または電磁的方法)による明示が義務付けられています。
| 書面明示が必要な事項 |
|---|
| 労働契約の期間(有期か無期か) |
| 就業場所・業務内容 |
| 始業・終業時刻、所定外労働の有無、休憩・休日 |
| 賃金の計算方法・支払い方法・締め日・支払日 |
| 退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
口頭だけでの明示は許されず、明示義務違反は30万円以下の罰金となります。これにより、後から「そんな条件だとは知らなかった」というトラブルを防いでいます。
3. 賃金支払いの5原則
賃金は次の5つの原則に従って支払わなければなりません。これに違反する支払い方法は無効です。
| 原則 | 内容 | NG例 |
|---|---|---|
| 通貨払い | 現金(または振込等)で支払う | 商品券・自社製品での支給 |
| 直接払い | 労働者本人に直接支払う | 親権者・代理人への支払い |
| 全額払い | 賃金全額を支払う(控除は法令・労使協定に基づく場合のみ) | 使用者が一方的に「罰金」を差し引く |
| 毎月1回以上払い | 少なくとも毎月1回は支払う | 3ヶ月に1回まとめて支払う |
| 一定期日払い | 特定した日に支払う | 「月の最終営業日」(変動する日)での支払い |
4. 法定労働時間と割増賃金
法定労働時間は1日8時間・1週40時間が原則です(特例事業場は週44時間)。
これを超えて労働させる場合は、労使間で36協定(時間外・休日労働に関する協定)を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
2019年4月施行の改正で、36協定を結んでも超えられない上限が法律に明記されました(それまでは行政指導レベルの基準しかなく、罰則もありませんでした)。
| 上限の種類 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 原則 | 月45時間・年360時間 | 労基法36条4項 |
| 特別条項(臨時的な特別の事情がある場合) | 年720時間以内 | 同条5項 |
| 特別条項でも超えられない絶対上限① | 休日労働を含め単月100時間未満 | 同条6項2号 |
| 特別条項でも超えられない絶対上限② | 休日労働を含め複数月平均80時間以内 | 同条6項3号 |
| 月45時間を超えてよい月数 | 年6か月まで | 同条5項後段 |
これらに違反すると罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されます。「特別条項をつければ無制限に働かせられる」というのは誤りです。年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間という3つの上限は、特別条項があっても超えられません。
| 労働の種類 | 割増賃金率(最低基準) |
|---|---|
| 時間外労働(法定労働時間超) | 25%以上 |
| 深夜労働(22時〜5時) | 25%以上 |
| 休日労働(法定休日) | 35%以上 |
| 月60時間超の時間外労働 | 50%以上 |
休憩時間の最低基準も法定されています。
| 労働時間 | 必要な休憩時間 |
|---|---|
| 6時間を超える場合 | 45分以上 |
| 8時間を超える場合 | 1時間以上 |
5. 年次有給休暇:付与要件と付与日数
6ヶ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者には、10日の年次有給休暇が付与されます(労働基準法39条1項)。その後は勤続年数に応じて増加し、最大20日となります。
ヒント:8割出勤の基準が設けられる理由:全く出勤しない期間があった労働者にも有給を付与すると、実質的に義務を果たしていない期間に休暇を与えることになるからです。一定の出勤実績を前提としつつ、健康確保のための休暇を保障するバランスをとっています。
パートタイム労働者など、所定労働日数が通常の労働者より少ない者には、その日数に応じた「比例付与」が行われます(労基法39条3項)。付与日数は正社員と同じ表ではなく、週の所定労働日数に比例して少なくなります(例:週4日勤務・勤続6か月なら7日など)。
2019年4月施行の改正で、使用者には年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、そのうち5日について、労働者ごとに時季を指定して取得させる義務が課されました(労基法39条7項)。労働者が自分で請求して取得した日数や、計画年休で取得した日数は、この5日から差し引くことができます(同条8項)。「有給休暇は労働者が請求しなければ消化されない」という理解は、この5日分については誤りです——使用者の側に、取得させる義務があります。
よくある誤解・つまずき
- 労働基準法は「最低基準」。 これを下回る労働契約・就業規則は、その部分が無効になります。
- 法定労働時間(原則 週40時間・1日8時間)を超えるには36協定が必要。
- 36協定を結べば無制限に働かせられる、というのは誤り。 特別条項があっても年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間の上限は超えられません(2019年4月施行)。
- 年次有給休暇は「雇入れ6か月+8割出勤」で発生し、取得理由を問われません。
- 有給休暇は労働者からの請求が原則ですが、年5日分は使用者が時季を指定して取得させる義務があります(2019年4月施行)。
ここまでのまとめ
- 労働基準法の基礎(最低基準、強行法規)。
- 労働時間・休憩・休日(週40時間・1日8時間、36協定、割増賃金、時間外労働の上限規制)。
- 年次有給休暇(6か月・8割出勤で付与、比例付与、年5日の時季指定義務)。
確認クイズ(抜粋)
Q1. 労働基準法で定める賃金支払いの5原則に含まれないものはどれか。
A. 均等払いの原則
Q2. 労働基準法の法定労働時間として正しいものはどれか。
A. 1日8時間・1週40時間
Q3. 労働基準法上、使用者が時間外・休日労働をさせるために必要なものはどれか。
A. 36協定の締結と労働基準監督署への届出
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