回帰診断・正則化・一般化最小二乗法
VIF・てこ比・クックの距離・ダービン・ワトソン比による回帰診断、Box-Cox 変換と Ridge・Lasso 回帰、重み付き・一般化最小二乗法を学びます。
このモジュールで学ぶこと
重回帰分析とモデル評価では、カフェの売上を気温・週末・イベントで説明する式を最小二乗法で当てはめ、変数を選びました。ただ、当てはめた式を信頼できるのは、最小二乗法の前提(誤差の期待値が0、分散がそろう、誤差どうしが無相関)が成り立つときだけです。読み終えると、次の3つができるようになります。
- VIF・てこ比・クックの距離・ダービン・ワトソン比で、当てはめた回帰の問題点を見つけられる
- Box-Cox 変換や Ridge 回帰・Lasso 回帰で、仮定違反や多重共線性に対処できる
- 誤差のばらつきがそろわないとき、重み付き最小二乗法と一般化最小二乗法を使える
1. 回帰診断:見えない落とし穴を検出する
モデルに問題がないかを確認する「診断作業」も重要です。
- 多重共線性:説明変数同士が「似た者同士(強い相関)」だと係数が不安定になります。VIF(Variance Inflation Factor: 分散拡大係数) が 10 を超えたら要注意。 で、 は変数 をほかの説明変数で回帰したときの決定係数です。たとえば気温を湿度と季節で まで説明できるなら VIF は 10 で、気温の係数の分散が相関の無い場合の10倍(標準誤差は約3.2倍)に膨らみます
- leverage(てこ比):各データ点が「説明変数空間でどれだけ外れた位置にあるか」を表す指標。leverage が高い点は回帰直線を引っ張る力が強い(ハット行列 の対角成分 で定義)
- クックの距離:「leverage が高く(説明変数の外れ値)かつ残差が大きい(目的変数の外れ値)」点を影響力の高い点として検出する指標。クックの距離 (または )の点は特に要調査
- ダービン・ワトソン比(DW比):「残差(予測とのズレ)に時間的なつながりがないか」を調べる指標。値が 2 に近いほど問題なし、0や4に近いほど「連続するデータが互いに影響し合っている(自己相関あり)」のサイン
- ブートストラップ法:手元のデータを繰り返し再抽出して標準誤差を計算機的に求める手法。分布の仮定が困難なときに有効
📖 Box-Cox 変換:残差の形を整えるとき
残差の分散が予測値とともに大きくなる、残差が右に裾を引く、といった仮定違反があるとき、目的変数 (正の値)を次の形で変換すると改善することがあります。
- は変換なし(定数を引いただけ)、 は対数変換、 は平方根変換に相当します。
- は最尤法で選びます。変換後の残差が最も正規分布に近く、等分散になる を探す考え方です。
- 変換したスケールで推定した係数は、元の単位に戻すと解釈が変わります。予測値は逆変換して使います。
つまずきやすい点:Box-Cox 変換は が前提です。0や負の値を含むときは、定数を足してから使うか、別の変換を検討します。
📖 正則化回帰:変数が多すぎるとき
- Lasso回帰(L1正則化):不要な変数の係数を「完全に0」にして自動選択。L1の制約領域がひし形(角が尖っている)のため、最適解が角(係数=0の点)に来やすい
- Ridge回帰(L2正則化):係数が極端な値をとるのを抑えてモデルを安定化。L2の制約領域は球形で角がないため係数はゼロに近づくが完全には0にならない
Ridge 回帰の中身(L2正則化の拡充):残差平方和に係数の2乗和の罰則を足した量を最小にします。
解は閉じた形で書けます。
- なら通常の最小2乗法に一致し、 を大きくするほど係数は0に向かって縮みます。
- 説明変数どうしの相関が高く が特異に近いとき、最小2乗法の逆行列は不安定ですが、 を足すと安定します。多重共線性への対策として使われる理由です。
- 罰則は係数の大きさに課すので、説明変数は標準化してから使います。切片は罰則に含めません。
- はバイアスとバリアンスのバランスを決めます。大きいほどバイアスが増え、バリアンスが減ります。通常は交差検証で選びます(モデル選択)。
2. 誤差のばらつきがそろわないとき:一般化最小二乗法
重回帰分析とモデル評価で見たガウス=マルコフの定理は、誤差の分散がどのデータでも同じで、誤差どうしが無相関であることを前提にしています。店の広さと売上のように、大きい店ほど売上の振れ幅も大きいと、この前提が崩れます。
最小二乗法は、どの点のズレも同じ重みで数えます。振れ幅の大きい点のズレは偶然の部分が多いのに、ほかの点と同じだけ直線を引っ張ります。そこで、残差の2乗に誤差分散の逆数 の重みをかけてから和を最小にします。これが重み付き最小二乗法(WLS)です。
誤差どうしに相関がある場合(時系列で前日の誤差が翌日に残るなど)も含めて、誤差の分散共分散行列を と書くと、推定量は次の形になります。これが一般化最小二乗推定量(GLS)です。
- (分散が同じで相関なし)なら、通常の最小二乗推定量 に戻ります。 が対角行列なら重み付き最小二乗法です
- 考え方は、データを変換して前提を満たす形に直してから最小二乗法を使う、というものです。WLS なら各行( と )を で割ると、誤差の分散がそろいます
- が分かっていれば、GLS 推定量は線形不偏推定量の中で分散が最小になります(ガウス=マルコフの定理を広げたもの)。実際には を残差から推定して使います
図と同じ条件でデータを5000回作り直して傾きを推定すると、平均はどちらも真の値 0.5 でした。ばらつき(標準偏差)は、最小二乗法が 0.031、重み付き最小二乗法が 0.020 です。どちらにも偏りはなく、違うのは精度です。最小二乗法で同じ精度を得るには、約2.4倍のデータが要ります。
確認クイズ(抜粋)
Q1. VIF(分散拡大係数)がいくらを超えると、多重共線性が疑われるか?
A. 10
Q2. 不要な変数の回帰係数を完全に 0 にし、自動的に変数選択を行ってくれる手法は?
A. Lasso回帰
Q3. 外れ値が回帰モデルに与える影響力を測るための指標は?
A. クックの距離
全10問のクイズはサイトのインタラクティブ版でお試しください。
第8章の他のモジュール
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