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KL情報量・AIC・クロスバリデーション

モデル間の「ズレ」を定量化するKL情報量から、AIC・CVによるモデル選択まで学びます。

このモジュールで学ぶこと

「直線で当てはめるか、曲線で当てはめるか?」データへの当てはまりだけなら曲線の勝ちですが、未来のデータへの予測は直線の方が正確なこともあります。これが「どのモデルを選ぶか」という問いの核心です。このモジュールではカルバック・ライブラー情報量・AIC・クロスバリデーションという3つのアプローチを、理論的な関係も含めて学びます。対数尤度 の定義はモジュール 1.14 で扱いました。

過学習の数値例:「9次多項式で10点を当てはめる」

データ10点に対して9次多項式を当てはめると、訓練誤差はゼロ(完璧にフィット)になります。しかし新しいテストデータでの予測誤差は非常に大きくなります。曲線が「データの偶然のばらつき」までトレースしてしまうからです。これが過学習(overfitting)の典型例です。

モデル選択の問題は本質的に「手元のデータへの当てはまり」と「将来のデータへの予測能力」をどうバランスするかです。


1. カルバック・ライブラー情報量

2つの確率分布 (真の分布)と (推定モデル)の「ズレ」を測る指標がカルバック・ライブラー情報量(KL情報量、KL-Divergence)です:

KL情報量の直感的意味

は「**真の分布 で観測したとき、 を使った場合に生じる平均的な情報損失**」と解釈できます。 なら情報損失はゼロ、ずれるほど大きくなります。

、等号は のとき。ただし対称ではない()。「距離」ではなく「乖離量」(divergence)と呼ぶのはこのためです。


2. AIC が KL情報量の近似である導出

「フィットが良くてもパラメータが多すぎると将来データへの予測が悪くなる」このバランスを取るのが情報量規準です。

真の分布 と推定モデル (最尤推定パラメータ)の KL情報量を最小化したいですが、 は未知です。赤池(1974)は次の近似を示しました。「平均的な KL情報量のずれ」は次の量で近似できます:

ここで はパラメータ数。この量をAIC(赤池情報量規準、Akaike Information Criterion)と呼びます:

は最大対数尤度(フィットの良さ)、 は複雑さへのペナルティ。AIC が小さいモデルが優れています。 の項は「パラメータを推定したことによる尤度の楽観的バイアス」を補正するために加わります。

試験頻出:AIC の比較は同一データに対して複数モデルを評価するときに使います。AIC の絶対値の意味はなく、相対比較が重要です。

よくある誤解:「AIC が小さいモデル = 絶対的に良いモデル」と思いがちですが、誤りです。AIC は同一データ・同一目的変数で計算された複数モデル間の相対指標で、絶対値そのものに意味はありません(対数尤度の定数項や標本サイズの取り方で値が変わる)。「AIC = 200 のモデルは AIC = 5000 のモデルより25倍良い」のような解釈はできません。意味があるのは「差 」で、慣例として ならほぼ同等、 なら明確に劣ると判断します。


3. AIC と BIC の違い

BIC(ベイズ情報量規準)は次の量を最小化します:

ペナルティが サンプルサイズに依存する点が AIC と異なります。

規準ペナルティ哲学大標本での傾向
AIC予測精度を重視真のモデルが候補にあっても複雑なモデルを選びがち
BIC真のモデルが候補にある前提一致性あり(真モデルを選ぶ確率→1)
CVデータから直接推定実データの予測力を直接測定LOOCV は AIC と漸近的に同値

例: なら なので、BIC はパラメータ追加に対し AIC より厳しい。 が大きいほど差が広がります。


4. クロスバリデーション(交差検証)

クロスバリデーション(Cross-Validation, CV)は「データを訓練用と検証用に分けて、モデルの汎化性能を直接推定する」方法です。AIC が理論的な近似なのに対し、CV は実測値です。

k分割交差検証(k-fold CV):データを 個のグループ(フォールド)に等分し、1つを検証用・残り を訓練用として 回繰り返します。各回の検証誤差の平均が汎化誤差の推定値です。

Leave-One-Out CV(LOOCV)(データ数と同じ)の場合。1つずつ除いて学習し、除いた1点で検証を繰り返します。ジャックナイフ法と構造が同じです。

CV と AIC の理論的関係

LOOCV は AIC と漸近的に同値であることが知られています(Stone, 1977)。両者とも「予測誤差の不偏推定」を目指す立場で、大標本では同じモデルを選ぶ傾向があります。違いは:

  • AIC:解析的な近似(計算が速い、対数尤度ベースで理論的)
  • CV:実測ベース。分布の仮定が緩い、計算コストが高い( 回学習)

試験頻出:「AIC、cross validation」はシラバスに明示されたモデル選択の手法です。「過学習の防止」「汎化性能の推定」という文脈で使い分けを問われます。BIC との違い(予測重視 vs 真モデル仮定)も頻出です。


5. 数値例:AIC によるモデル比較

カフェの売上を予測するために3つのモデルを比較します():

モデルパラメータ数 最大対数尤度 AICBIC
M1(定数のみ)1
M2(気温)2
M3(気温+曜日+イベント)4

AIC では M3(最小値258)が選ばれますが、BIC では M2(最小値269.2)と M3(268.4)がほぼ同等です。 という重いペナルティが BIC を「より単純なモデル寄り」にしている様子が分かります。


6. 関連モジュールへの導線

  • 1.14 推定法:本モジュールの (最大対数尤度)の定義と計算手順を扱います。
  • 1.15 推定量の性質:MLE の一致性・有効性は AIC の理論的根拠を支えます。
  • 1.22 漸近理論:フィッシャー情報量・MLE の漸近正規性が AIC 導出の背景にあります。

モデル選択の実務的な原則

「AIC が最小だから最良」と機械的に決めるのは危険です。実務では:

  1. 複数の規準を併用:AIC・BIC・CV を比較し、結論が一致するモデルを優先
  2. 解釈可能性:複雑なモデルが少しだけ AIC が低くても、シンプルなモデルを選ぶ判断もある
  3. 検証データの確保:CV や別データセットで予測精度を確認することが理想

過学習は「データに対する誠実さの欠如」とも言えます。シンプルさを尊重する姿勢が、信頼できる統計分析の基本です。

確認クイズ(抜粋)

Q1. KL情報量 の性質として正しいものはどれか?

A. 常に0以上で、等号は のとき

Q2. AIC = において、 の項が存在する理由はどれか?

A. パラメータ数が多いモデルへのペナルティ(過学習の防止)

Q3. AIC と BIC を比較したとき、BIC の特徴として正しいものはどれか?

A. BIC のペナルティ項は でサンプルが多いほど大きくなる

全10問のクイズはサイトのインタラクティブ版でお試しください。

第4章の他のモジュール

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