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推定法:最尤推定法とモーメント法

最尤推定量(MLE)とモーメント推定量の導出と性質——「もっともらしいパラメータ」の求め方を学びます。

このモジュールで学ぶこと 「全国のコーヒー愛飲者の平均月額消費を知りたい」——全員を調査するのは不可能なので、100人を無作為抽出してパラメータを推定します。このモジュールでは「どうやってパラメータの値を求めるか」という推定法(estimation method)——最尤推定法とモーメント法——を学びます。推定量の品質評価(不偏性・有効性など)は次のモジュール 1.15 で、深い漸近理論は 1.22 で扱います。 推定量とは「データを使って真の値を当てる関数」 母数(真の値) は未知です。手元にあるデータ を加工して を推測する関数を推定量(estimator)(シータハット)と呼びます。 最尤推定法 「このデータを最も"もっともらしく"説明するパラメータはどれか?」——この問いに答えるのが最尤推定法(MLE: Maximum Likelihood Estimation)です。 コインを10回投げて7回表が出ました。表の確率 として最も自然な推定値は です。これは実際に「データが得られる確率が最大になる 」と一致します。 尤度関数(Likelihood Function) は「パラメータが だとしたとき、今のデータが得られる確率(密度)」です。これを最大化する が最尤推定量です。 計算上は (対数尤度)を最大化するほうが便利です。独立なデータでは積が和になり、 を解きます(スコア方程式)。 MLE の標準4ステップ手順 尤度関数を書く:(積の形) 対数尤度を取る:(和の形——微分が楽) スコア方程式: を解く 2階微分の符号確認:(上に凸=最大点であること) 具体例:ベルヌーイ試行で MLE を実際に計算する コインを10回投げて成功5回・失敗5回が観測されたとします。表の確率 の MLE を4ステップで導きます。 ステップ1(尤度):1回の試行の確率関数は ()。観測 、 より: ステップ2(対数尤度): ステップ3(スコア方程式): で微分してゼロと置きます。 ステップ4(最大確認): なので確かに最大点です。一般化すると (標本平均)——「成功比率を素直に推定値とせよ」という直感と一致します。 試験頻出:正規分布 の MLE は (標本平均)、( 分の1——不偏ではない)。 よくある誤解:「MLE は最良の推定量だから必ず不偏」と思いがちですが、誤りです。正規分布の の MLE は で となり真値より小さい方向に偏っています。MLE が保証するのは「漸近的な有効性」であって、有限標本での不偏性ではありません。 最小二乗法との関係:正規誤差モデルでは MLE と最小二乗推定(OLS)は一致します。残差二乗和の最小化と対数尤度の最大化が同じ解を与えます。 モーメント法 MLEは強力ですが、計算が複雑になる場合があります。より直感的な方法がモーメント法(Method of Moments, MM)で、「母集団のモーメントと標本モーメントが等しい」とおいてパラメータを決める方法です。 次母モーメント を標本モーメント で置き換えて連立方程式を解きます。 パラメータが1つなら1次モーメント(期待値)だけで解け、「標本平均を期待値の式と等置する」という操作になります。 指数分布 のモーメント推定量の導出: 指数分布 の理論平均は 。これを標本平均 と等置します: 例えば故障時間データ 時間なら (時間あたり0.5回の故障率)。MLE も同じ になり、両者が一致します。 ポアソン分布 : なので 。これも MLE と一致します。 使い分けの表:なぜ MLE が一般に優れるか なぜ MLE はモーメント法より優れているのか MLE は十分統計量(モジュール 1.13 参照)を完全に活用するため、データの情報を最大限引き出します。その結果、漸近的に最小分散(クラーメル・ラオ下限を達成)を実現します——これは MLE が最良の推定量であることの理論的根拠です。漸近的性質の詳細は次のモジュール 1.15、フィッシャー情報量との関係は 1.22 漸近理論で扱います。 MLE がうまく機能しない例 MLE は強力ですが、すべての場面で万能というわけではありません。注意すべき場合があります。 一様分布 :尤度 は不連続で、スコア方程式が使えません。(標本最大値)が MLE になります——「微分してゼロ」が常に使えるわけではない点に注意。 多峰性の対数尤度:複数の極大点があるとき、数値最適化が誤った極大に収束する危険があります。複数の初期値で計算するなどの工夫が必要です。 正則条件の違反:パラメータ空間の境界で MLE が定義されないことがあります(例:分散パラメータが0近傍)。 試験頻出:MLE が「微分してゼロ」で常に求まるとは限らない——特に一様分布のように尤度関数の台がパラメータに依存する場合は注意。具体的な処理(最大値や最小値が MLE)は試験頻出です。

確認クイズ(抜粋)

Q1. 尤度関数 の直感的な意味として正しいものはどれか?

A. 観測データが得られる確率を の関数として見たもの

Q2. 最尤推定量を求める際に「対数尤度」を使う主な理由はどれか?

A. 積の形が和に変わり微分しやすくなるから

Q3. 正規分布 の の最尤推定量(MLE)はどれか?

A. 標本平均

全10問のクイズはサイトのインタラクティブ版でお試しください。

第4章の他のモジュール

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