船橋屋のくず餅|亀戸天神門前で生まれた発酵和菓子

最終更新: 2026年6月22日

亀戸天神の門前にのれんを掲げる船橋屋は、200年以上の歴史を持つくず餅の老舗です。関東の「くず餅」は、実は葛(くず)ではなく小麦から作られる発酵和菓子。その意外な正体と、亀戸天神とともに歩んだ歴史を紹介します。

亀戸天神門前の老舗・船橋屋

船橋屋は、船橋屋の公式の沿革によれば、文化2年(1805年)、十一代将軍・徳川家斉(いえなり)の時代に創業した、くず餅の老舗です。

創業者の初代・勘助(かんすけ)は、下総国(現在の千葉県北部)の船橋の出身でした。良質な小麦の産地で育った勘助は、梅や藤でにぎわう亀戸天神の門前に目をつけ、参拝客に向けてくず餅を商い始めます。「船橋屋」という店名は、この創業者の出身地に由来します。

関東のくず餅は「葛」ではない

「くず餅」と聞くと、葛粉(くずこ)から作る透明なお菓子を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、亀戸の船橋屋に代表される関東のくず餅は、葛ではなく小麦から作られる発酵和菓子です。

船橋屋の公式によれば、関東のくず餅は、小麦のでんぷんを乳酸発酵させ、せいろで蒸し上げて作られます。仕上げに黒蜜ときな粉をかけて食べるのが定番のスタイルです。発酵を経て作られる、めずらしい和菓子といえます。

小麦のでんぷん乳酸菌乳酸発酵せいろで蒸す黒蜜・きな粉

関東のくず餅の製法(模式図)。小麦のでんぷんを乳酸発酵させ、せいろで蒸し上げ、黒蜜ときな粉をかけて仕上げます。葛粉を使う関西の葛餅とは原料も作り方も異なります。

発酵にかかる日数について、「○○日間発酵させる」といった具体的な数字が紹介されることがありますが、本サイトでは公式に確認できた事実のみを記し、裏づけのない具体的な日数は記載していません。

関東のくず餅と関西の葛餅

同じ「くずもち」でも、関東と関西では、原料も作り方もまったく異なります。一般に、両者は次のように区別されます。

関東の「くず餅」関西の「葛餅」
おもな原料小麦のでんぷん葛粉(くずこ)
作り方乳酸発酵させて蒸す葛粉を水で溶いて加熱し固める
見た目白っぽく弾力がある透き通っている
代表的な食べ方黒蜜・きな粉黒蜜・きな粉 など

関東と関西で「くずもち」がこれほど違うのは、それぞれの土地で手に入りやすい原料を生かして発展したためと考えられています。船橋屋のくず餅は、下総の良質な小麦を背景に生まれた、関東ならではの味です。

吉川英治が残した大看板

船橋屋は、文人にも愛されてきました。船橋屋の公式によれば、大きな文字を決して書かなかったといわれる小説家吉川英治(よしかわえいじ)が、唯一残した大看板が、ケヤキの一枚板に墨書された「船橋屋」の文字でした。この看板は、現在も本店の喫茶室に掲げられています。

亀戸天神の門前という土地柄が、参拝客だけでなく、文化人との縁も育んできたことがうかがえます。

まとめ

  • 船橋屋は文化2年(1805年)、亀戸天神門前で創業したくず餅の老舗
  • 創業者・勘助は下総船橋の出身で、それが店名の由来
  • 関東のくず餅は葛ではなく小麦でんぷんの発酵和菓子(関西の葛餅とは別物)
  • 小説家・吉川英治が残したケヤキの大看板が本店に伝わる

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