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正規分布の性質

PDF・68-95-99.7ルール・歪度・尖度・MGFで、正規分布を深く理解します。

このモジュールで学ぶこと

「日本人男性の身長は170cm前後に集中し、極端に低い人も高い人も少ない」こんな「鐘の形」の分布が統計学のあらゆる場面で登場します。なぜ自然界のデータは正規分布に従うのか、そして正規分布をどう数式で扱うのかを学びます。

1. 正規分布:自然界の「鐘の形」

まず、具体的な場面を想像してください。

日本人男性の身長を1万人分測り、ヒストグラムを描いてみます。平均は約 170cm、標準偏差は約 6cm。グラフを描くと、真ん中(170cm付近)が最も多く、そこから遠ざかるほど人数が少なくなる、左右対称の山形になります。

この「鐘の形」が 正規分布(Normal Distribution)です。身長に限らず、模試の点数・精密機械の製造誤差・気温のばらつきなど、自然界や社会の多くのデータがこの形に従います。

正規分布の確率密度関数(PDF):

確率密度関数とは「グラフの面積が確率になる関数」です。f(x) の値そのものは確率ではありません。「164cm〜176cm の確率は?」と聞かれたら、その区間の面積(グラフの下の領域)を計算します。

(ミュー)は平均(分布の中心)、(シグマ二乗)は分散(データの広がり具合)を表します。この2つだけで形が完全に決まるのが正規分布の大きな特徴です。なぜこの特定の形になるのか。多くの独立した要因の和は正規分布に収束するという中心極限定理(次のモジュールで学びます)から、この形が必然的に導かれます。

から という変換をすると、 は平均0・分散1の標準正規分布 に従います(標準化)。確率を求めるときはこの変換で標準正規分布表に帰着させるのが基本操作です。

68-95-99.7のルール:身長の例で覚えよう

正規分布では、平均からどれくらい離れた範囲に何パーセントのデータが入るかが決まっています。先ほどの身長(cm, cm)で確認しましょう:

  • (164〜176cm):全体の約 68.3%。だいたいのひとはここ
  • (158〜182cm):全体の約 95.4%。これより外は「珍しい」
  • (152〜188cm):全体の約 99.7%。ほぼ全員がここに収まる(この外側に出る人は わずか 0.3% のレアケース)
152158164170176182188 ±1σ 68.3% ±2σ ±3σ ±1σ:68.3% ±2σ:95.4% ±3σ:99.7% ちょうど95%になるのは ±1.96σ(158.2〜181.8cm) 身長(cm)。平均 170・標準偏差 6
本文の身長の例(平均 170cm・標準偏差 6cm)を描いたものです。濃い順に、平均から ±1σ(164〜176cm)に 68.3%、±2σ(158〜182cm)までに 95.4%、±3σ(152〜188cm)までに 99.7% が入ります。赤の点線は ±1.96σ で、この内側がちょうど 95% です。どの正規分布も (X − μ)/σ で標準正規分布にそろうので、この割合は平均や標準偏差の値によらず同じです。

押さえどころ:「 の範囲に 95% のデータが入る」という値は、後の章で学ぶ95%信頼区間の公式に、 という係数としてそのまま現れます。

📖 分布の「クセ」を数値化する2つの指標

グラフを見なくても「この分布がどんな形か」を数字1つで表せる指標があります。

歪度(Skewness・わいど):左右のバランス

  • 0:左右対称(正規分布はここ)
  • プラス(右に裾が長い):例、年収分布。ほとんどの人は低〜中所得だが、ごく一部の高額所得者が右側に裾を引く。
  • マイナス(左に裾が長い):例、難易度の低い試験の得点。高得点側に人が集まり、低い方に裾が出る。

尖度(Kurtosis・せんど):山の尖り具合と裾の厚さ

  • 基準は 3(ピアソンの定義。正規分布の尖度がちょうど 3 になる)。RやPythonなど統計ソフトでは「3を引いた値(超過尖度)」を表示し 0 を基準にする場合も多いので、使うツールで確認を。
  • 3より大きい(山が尖って裾が厚い):例、株価の日次変動。ほとんどの日は小幅だが、たまに大暴落・急騰が起きる。外れ値が出やすい形。
  • 3より小さい(山が平らで裾が薄い):例、製品の重さが均一にばらついている工場ライン。

各分布の形を比べると、裾の向きが歪度の正負と、山の鋭さが尖度の大きさにそれぞれ対応していることが視覚的に確認できます。

📖 (発展)モーメント母関数(MGF)

ここまで正規分布の「形」を表す指標(歪度・尖度)を学びました。ではもう一歩踏み込んで、「2つの独立な正規変数を足すと、結果も正規分布になる」これをなぜそう言えるのか、どうやって証明するのでしょうか?

その答えが モーメント母関数(MGF) です。MGFとは「ある分布の全性質を1つの関数に凝縮したもの」で、正規分布には固有の形があります:

具体例で証明してみましょう。

数学の点数 (平均60点・分散100)と英語の点数 (平均55点・分散64)が独立のとき、合計点 の分布は?

独立な変数の和のMGFは積になるので():

この形は のMGFと完全一致 → 合計点は に従うと証明できます。

押さえどころ:正規分布のMGFの形 は、正規分布を見分ける目印になります。「このMGFはどの分布か」という識別は、MGFが分布を一意に決めるという性質の典型的な使い方です。

📖 (発展)確率母関数(PGF)

非負の整数値をとる離散型の確率変数には、MGF と同じ役割をする確率母関数(Probability Generating Function) があります。確率 を、 の係数として1本の式に並べたものです。

ポアソン分布 では になります。 で微分すると が得られます。また独立な和の PGF は積になるので、 と の和の PGF は となり、和が に従うことを MGF と同じ手順で示せます。

確認クイズ(抜粋)

Q1. 正規分布 において、平均から の範囲に含まれるデータの割合に最も近いものはどれか?

A. 約95%

Q2. 標準正規分布 の尖度(ピアソンの定義)はいくらか?

A. 3

Q3. モーメント母関数が で表される分布は?

A. 正規分布

全10問のクイズはサイトのインタラクティブ版でお試しください。

第3章の他のモジュール

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